厩務員の年収は1000万超え可能?JRAと地方の格差や進上金の実態
競馬界の華やかな舞台を支えるホースマンたち。その最前線で馬と寝食を共にし、日々のケアからレースへの送り出しまでを担うのが「厩務員(きゅうむいん)」です。競馬ファンや転職希望者の間では「G1馬を担当すれば一攫千金」「年収1000万円プレイヤーがゴロゴロいる」といった景気の良い話が語られる一方で、「朝が異常に早く重労働で過酷」「割に合わない」といった真逆のネガティブな噂も絶えません。
厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)による2025〜2026年最新の賃金統計データでは、厩舎スタッフが含まれる職業分類の平均年収は約360.8万円、ハローワーク求人の平均賃金は月額24.2万円前後と公表されています。しかし、この一律の数字だけを見て「厩務員の給与水準」を判断するのは大きな誤りです。中央競馬(JRA)と地方競馬の間には想像を絶する経済格差が存在し、さらに「担当馬が獲得する賞金」によって手取りが跳ね上がる独自の給与システムが敷かれているからです。業界関係者の証言や最新の統計を基に、その生々しい懐事情の全貌を明らかにします。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:JRA厩務員の平均年収は約750万〜850万円に達し、重賞勝ち馬を担当すれば年収1000万〜1500万円超えも現実的に狙える。
- 要点2:地方競馬の厩務員給料は年収300万〜450万円前後がボリュームゾーンであり、賞金規模の違いからJRAとの間に2倍以上の経済格差が存在する。
- 要点3:厩務員特有の「進上金(本賞金の原則5%)」がボーナスを跳ね上げる一方、午前2時出勤や命がけの危険を伴う過酷な労働環境が表裏一体となっている。
【年収1000万円の真実】JRA厩務員と地方競馬で生じる驚愕の収入格差
厩務員の給与体系を紐解く上で、最初に理解しなければならないのが「中央(JRA)」と「地方(NAR)」の圧倒的な壁です。同じ「馬の世話をする仕事」でありながら、所属する団体によって手にする報酬は全くの別世界となっています。
日本中央競馬会(JRA)に所属する厩舎で働くJRA厩務員の平均年収は約800万円前後と推計されています。調教師が運営する厩舎に雇用される形をとるものの、日本中央競馬会や厩友会(労働組合組織)との取り決めに基づく強固な給与体系が確立されており、基本給に加えて手厚い各種手当が支給されるためです。30代中盤から40代のベテランになれば、ベースの給与と固定賞与だけで年収700万〜800万円台に到達するケースは珍しくありません。さらにオープン馬や重賞ウイナーを担当した場合、後述する進上金が加算されることで厩務員で年収1000万円突破を達成するトラックマンは毎年確実に存在します。
一方、全国各地の自治体や競馬組合が管轄する地方競馬の厩務員給料は、厳しい現実に直面しています。南関東4競馬(大井・川崎・船橋・浦和)のように興行収入が高く賞金水準が引き上げられている地域では年収450万〜550万円程度を稼ぐスタッフも見られますが、地方競馬全体の平均値で見ると年収300万〜380万円前後にとどまるのが実情です。前述した公的統計「年収約360万円」という数字は、こうした地方競馬や育成牧場の賃金が大きく反映された結果といえます。
取材に応じた元JRA厩務員の手記や関係者の証言によると、「JRAの厩務員は一部上場企業の課長クラス以上の高給取りになれるチャンスがあるが、地方競馬では生活を維持するだけで精一杯という若手も少なくない」と語られており、どの舞台で馬を引くかによって生涯賃金に数千万円から1億円以上の開きが生じる構造となっています。

給与明細の裏側|基本給・ボーナス賞与と「進上金5%」のカラクリ
厩務員の収入を劇的に跳ね上げる最大の要因が、競馬界独特のインセンティブ制度である「進上金(しんじょうきん)」です。
レースで競走馬が掲示板(5着以内)に入着すると、馬主に支払われる本賞金の中から関係者への配分が行われます。競馬施行規程等により、獲得した競走馬の担当馬賞金に対する厩務員の進上金割合は一律5%と定められています。残りは調教師が10%、騎手が5%(障害競走では7%)、馬主が80%というのが標準的な内訳です。
この「5%」という数字の破壊力は、JRAのトップクラスのレースで顕著に現れます。例えば、1着賞金が5億円に設定されている国内最高峰のレース「ジャパンカップ」や「有馬記念」を自分の担当馬が制覇した場合、計算は以下のようになります。
5億円 × 5% = 2,500万円
たった1勝で、一般サラリーマンの平均年収の数倍に相当する進上金が担当厩務員ひとりに支払われるのです。G1競走を年間複数回勝利するような歴史的名馬を担当した厩務員の場合、基本給や厩務員のボーナス・賞与とは別に、年間で数千万円単位の臨時ボーナスが手元に入ることになります。
もちろん、これは極めて限られたトップスターホースの話です。未勝利戦(1着賞金約550万円)を勝った場合の進上金は約27万5,000円。担当馬がレースに出走できなかったり、下位に沈み続けたりした月は、進上金は数万円あるいはゼロになります。しかし、厩務員の給与は「完全歩合制」ではありません。調教師から毎月支払われる基本給、早朝作業手当、馬手当、遠征手当などの諸手当が手厚く保障されており、一般的な厩務員の手取り額は月30万〜45万円程度(JRAの場合)がベースとして確保された上で、進上金が上乗せされる仕組みになっています。
【データ比較】JRA・地方競馬・関連職種の待遇と年収一覧
厩舎で働くホースマンを取り巻く金銭面・労働実態の違いを可視化するため、JRA厩務員、地方競馬厩務員、さらには近接する調教助手や調教師の待遇を比較したのが下表です。
| 職種・所属区分 | 詳細・数値データ(年収目安) | 一般的な基準・相場(月給/賞与) | 編集部の見解・評価 |
|---|---|---|---|
| JRA厩務員 | 約700万〜1,200万円 (トップ担当馬持ちは1,500万円超) | 月給40万〜60万円+固定賞与年2回+進上金(5%) | 国内畜産・動物飼育業態としては突出した最高水準の高待遇。ただし狭き門。 |
| 地方競馬厩務員 | 約280万〜500万円 (南関東は高め、他地区は300万円台) | 月給20万〜35万円+寸志〜賞与+進上金(5%) | 地域ごとの興行格差が激しい。住み込みや寮費免除で生活コストを抑えるのが通例。 |
| 調教助手(JRA) | 約800万〜1,400万円 | 月給45万〜70万円+固定賞与年2回+進上金(5%) | 厩務員業務に加え高速の調教騎乗を担当するため、騎乗手当等の分だけ厩務員より高い。 |
| 調教師(JRA) | 約1,500万〜1億円超 (経営成績に完全依存) | 預託料収入(経営利益)+進上金(本賞金の10%) | 厩舎の個人事業主(経営者)。成功すれば億単位の富を得るが、馬が集まらなければ赤字リスクも。 |

厩務員と調教助手の違いとは?職種間のヒエラルキーとキャリアパス
競馬界の求人や現場の動向を見ていると、必ず耳にするのが「厩務員と調教助手の違い」です。外部からはどちらも作業服を着て馬を扱っているように見えますが、求められるライセンスと日常の業務領域には決定的な境界線が存在します。
端的に言えば、厩務員は「馬の地上ケアのプロフェッショナル」であり、調教助手は「競走馬に跨がって速い調教をつけられる専門職」です。
調教助手になるためには、競走馬を時速60kmを超えるスピードで正確に制御する高度な騎乗技術が求められ、JRAでは専用の免許資格を取得する必要があります。調教助手は朝の馬場開場とともに何頭もの競走馬に跨がって調教(追い切りなど)を行い、厩務員はその間に馬房のボロ(馬糞)出しや寝藁(ワラ)の交換、飼料(カイバ)の準備、調教前後の馬体の手入れやブラッシングをこなします。
近年では「攻め専(調教騎乗に専念する調教助手)」と「持ち乗り(調教騎乗も行いながら、担当馬の厩務員業務も兼任する調教助手)」の分業化が進んでおり、持ち乗り調教助手は騎乗手当などが加算されるため、一般的な厩務員よりも給与水準が100万〜200万円ほど高くなる傾向にあります。
そして厩務員や調教助手たちが最終的なステップアップとして目指す最高峰が「調教師」です。調教師免許試験は超難関(合格率数%)ですが、合格して自分の厩舎を開業できれば、調教師の年収は数千万円から1億円以上に跳ね上がります。厩舎スタッフにとって、厩務員から調教助手を経て調教師を目指すキャリアパスは、競馬界における最大の立身出世ルートとして機能し続けています。
【実態検証】「労働環境がきつい」は本当か?現場関係者が明かす過酷な日常
年収800万円と聞けば恵まれた職業のように映りますが、SNSや匿名掲示板(5chなど)の現場関係者のスレッドでは「生半可な気持ちで入ると1ヶ月で身体が壊れる」「厩務員の労働環境はきつい」という悲鳴にも似た書き込みが後を絶ちません。なぜそれほど過酷と言われるのでしょうか。現場の観察と手記から、その日常を検証します。
第一の壁は、極端な早朝シフトと生活リズムの過酷さです。
JRAのトレーニングセンター(美浦・栗東)の朝は早く、厩舎スタッフの1日は午前2時〜3時台の起床から始まります。午前4時前には厩舎に入り、馬の体温測定、飼料やり、馬房掃除を行い、夜明け前から調教スタンドへ馬を送り出します。午前10時頃に午前の作業を終えて一度休憩(昼寝や仮眠)をとりますが、午後2時半〜3時には再び厩舎へ戻り、夕飼葉や馬体のケア、夜飼葉の準備を行います。拘束時間が早朝と夕方に分断される「中抜け勤務」であるため、一般的なサラリーマンのようなまとまった自由時間は確保しにくいのが現実です。
第二の壁は、命の危険と隣り合わせの肉体労働です。
競走馬は体重約500kgの超大型草食動物であり、極限まで研ぎ澄まされたアスリートです。ちょっとした物音に驚いて暴れたり、突然蹴られたり踏まれたりすれば、骨折や内臓破裂などの重傷を負うリスクがあります。現場のベテラン厩務員でも「爪先を踏まれて指を粉砕骨折した」「立ち上がった馬の下敷きになりかけた」という経験談を持つ者は珍しくありません。
第三の壁は、「生き物相手」ゆえの休日の少なさです。
競走馬に土日祝日のカレンダーは関係ありません。レースのある週末は競馬場への長距離遠征や付き添いが発生し、担当馬が疝痛(馬の腹痛)や急病を起こせば真夜中であっても駆けつけなければなりません。高給の裏には、己の私生活と身体を極限まで削って馬に捧げる過酷な代償が存在しているのです。

一般に知られていない盲点とネットの誤解|未経験・年齢制限の壁
「高年収が得られるなら今すぐ厩務員に転職したい」と考える人が必ず直面するのが、極めて厳しい参入障壁と求人の年齢制限です。
ネット上では「未経験でもハローワークからJRA厩務員になれる」といった誤った言説が散見されますが、これは明白な誤解です。JRAの厩務員になるためには、千葉県印旛郡にあるJRA競馬学校の「厩務員課程」を受験して合格し、半年間の研修を修了しなければなりません。そして、この受験資格には厳格なハードルが設けられています。
競馬学校厩務員課程の募集要項によると、厩務員求人の年齢制限(受験資格)は原則として「28歳未満」と定められています。さらに決定的なのは、「牧場等における競走馬・育成馬の騎乗・育成管理の実務経験が1年以上(一部要件では2年以上)」必須とされている点です。つまり、乗馬未経験の社会人が一般企業から直接JRAの門を叩くことは制度上不可能です。
JRAを目指す若者はまず、北海道などの育成牧場に就職し、月給18万〜25万円前後の厳しい下積み環境で乗馬技術と馬の扱いを数年間叩き込まれます。その上で、倍率数倍〜十数倍の競馬学校試験を突破しなければなりません。30代を過ぎてから未経験で飛び込めるのは地方競馬の一部の厩舎や育成牧場に限られ、そこからJRAの厩務員へステップアップすることは年齢制限の規定上、極めて困難です。
【プロの結論】厩務員を目指すべき人・避けるべき人の判断基準
労働社会学およびキャリア形成の視点から、厩務員という特殊な専門職を目指すべき人物像と、絶対に避けるべき人物像の明確な境界線を提示します。
【向いている人・目指すべき条件】
- 「馬への愛情」が自己犠牲を上回る人:汚れたボロの処理や真冬の凍てつく早朝作業であっても、馬の健やかな息づかいや成長に心からの幸福を感じられるメンタリティが必須です。
- 徹底した自己規律とタフな身体を持つ人:午前2時起きを1年中継続し、怪我のリスクを冷静に回避できる運動神経と体幹の強さ、体調管理能力が求められます。
- 成果報酬の緊張感を楽しめる人:担当馬が勝てば進上金で跳ね上がり、負ければ悔しさを噛み締めるという「勝負の世界のヒリつき」をモチベーションに変換できる人に向いています。
【慎重になるべき人・おすすめできない条件】
- 単に「年収1000万」という金銭面だけに惹かれている人:高収入を得られるのは厳しい下積みを生き残り、JRAの狭き門を突破した一握りです。お金だけを目的にすると、日々の過酷な肉体労働と危険に精神が耐えきれなくなります。
- 規則正しい生活リズムや週末のプライベートを死守したい人:決まった曜日に休みたい、友人と夜遅くまで飲み歩きたいといった標準的な生活様式を重視する人には、中抜け勤務や不規則な遠征生活は耐え難い苦痛となります。
【厩務員の年収】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:JRA厩務員の手取り額は毎月いくらくらいになりますか?
A1:年齢や勤続年数、扶養状況によって異なりますが、JRA厩務員の月々の手取り額はおおむね30万円〜45万円程度が標準的です。これに加えて年2回の固定ボーナス(各手取り数十万円〜100万円超)が支給され、さらに担当馬がレースで5着以内に入れば「進上金」が上乗せされます。強い担当馬を持つ月は、手取りが一気に100万円を超えるケースもあります。
Q2:担当馬が重賞(G1など)を勝った場合、厩務員に入る賞金はどれくらいですか?
A2:JRAの規定により、競走馬が獲得した本賞金の5%が進上金として担当厩務員に支払われます。有馬記念やジャパンカップ(1着賞金5億円)を勝てば2,500万円、日本ダービー(1着賞金3億円)なら1,500万円、一般的なG3レース(1着賞金4,000万〜4,500万円前後)でも約200万〜225万円が担当厩務員に配分されます。
Q3:地方競馬からJRAの厩務員へ転職することはできますか?
A3:可能です。ただし、地方競馬でどれだけキャリアを積んでいても自動的に移籍できるわけではなく、JRA競馬学校の厩務員課程を受験して合格・修了する必要があります。募集要項の「28歳未満」という年齢制限をクリアしていれば、地方競馬の厩舎での実務経験は出願要件(牧場等での実務経験)として認められるため、地方で腕を磨いてからJRA競馬学校に挑戦する若手も実在します。
Q4:厩務員は定年まで安定して働ける職業ですか?
A4:JRA厩舎の場合、厩友会(労働組合)の協約により定年(一般的に60歳〜65歳前後)まで雇用が守られる仕組みが整っています。ただし、馬の蹴り飛ばしや落馬による大怪我でドクターストップがかかり、志半ばで引退を余儀なくされるリスクは一般職よりはるかに高いプロスポーツ並みの過酷な職種です。
まとめ:過酷な現場で掴む夢と現実を見極める視点
厩務員の年収事情を総括すると、「JRAでは平均800万円、トップ層は年収1000万〜1500万円を超える高収入が狙えるが、地方競馬では300万円台が中心という強烈な二極化構造」が存在することが分かります。
本賞金の5%が還元される進上金システムは、自らが手塩にかけて育て上げた相棒とともにビッグマネーを掴み取るという、他の職業では絶対に味わえない圧倒的なロマンを提供してくれます。しかしその対価として支払うのは、深夜2時起きの生活リズム、大怪我と隣り合わせの危険な作業、そして競馬学校の年齢制限や下積みという極めて険しい門戸です。
高額な年収という表面上の数字だけに惑わされることなく、その裏にある過酷な労働実態とプロフェッショナルとしての覚悟を正しく見極めることこそが、競馬界の深淵を理解し、後悔のないキャリアを選択するための唯一の道筋と言えます。 (出典: 厩 務 員 年収(Yahoo!ニュース))